公正証書の効力・メリット
- ★ 公正証書の証拠力と紛争予防機能
- 公正証書は、私人間の法律行為(遺言や契約など。これにより私人間に権利義務が生じます。)に関する陳述や、公証人自ら直接経験した事実(これを記載した公正証書を事実実験公正証書といいます。)を、公証人が書面に記載して作成する公文書であり、一般に、私文書に比べて高い証拠力(権利義務に関する人の意思内容やその他の事実が正確に記載されているという高い信頼性)が認められます。
- ★ 法律行為に関する公正証書の証拠力について
- 例えば、遺言の場合、私文書である自筆遺言証書も認められていますが、遺言者ご本人の死後に、本当にご本人が作成したものであるかどうか、作成時にご本人に遺言能力(有効な遺言をするために必要な理解力・判断力)があったかどうか、利害関係人からの強要・甘言等によって、ご本人の真意が歪められていないかどうかなどが争われた場合、もはやご本人にそれらについて確認することができないため、その証明は必ずしも容易ではありません。また、その内容に不備や不明確な点などがあったりすると、その解釈をめぐって見解が分かれ、争いになることもあります。そうなれば、せっかくの遺言者ご本人の意思が無に帰してしまうことになりかねません。
また、契約の場合、私文書である契約書に署名押印がなされていても、後になって、一方当事者が、自己の署名押印であることを否認したり、あるいは、そのような内容が記載されているとは気づかなかったとか、強要や嘘偽りなどによって真意でない契約書に署名押印させられたなどと主張して争いになり、結局、水掛け論ということで、その契約の効力が否定されることになりかねません。また、契約内容に法的な問題や趣旨不明確な点などがあるために、その効力や解釈等をめぐって争いになることもあります。そうなれば、契約当事者の正当な権利が否定されてしまうことになりかねません。
以上のとおり、私文書の証拠力は、必ずしも万全なものではありません。
これに対して、公正証書は、公証人が遺言者や契約当事者など(以下「嘱託人」ともいいます。)について、確実な証拠により本人確認をした上で、遺言能力や意思能力などがあることはもとより、その陳述内容が利害関係人からの強要等によって歪められていないかどうか、嘱託人が遺言や契約の内容を十分に分かっているかどうかなどを、公証人が自ら直接ご本人に確認した上で、その内容を書面に記述し、さらに、嘱託人が、公証人の面前で、その記述内容が自分の意思に合致することを確認の上で署名押印するという、法令の定めに従った慎重な方式・手続を経て初めて成立するものです。
また、公正証書は、公証人が、法律的観点から十分検討し、適宜、嘱託人に質問や助言等もして、嘱託人の真のニーズを見極めた上で、法律的に問題がなく、不備や不明確さ等の問題もない内容で作成します。
もちろん、その過程で、公証人は、公正中立の立場を堅持し、利害関係人や一方当事者に加担するようなことはありません。
以上のことから、公正証書は一般に、私文書よりも高い証拠力が認められており、私文書をめぐる前述のような紛争を未然に防止し、正当な権利を保障する機能を有しているのです。
- ★ 公正証書の執行力について
- 一般に私文書として作成される契約書は、債務者がその義務を履行しなかった場合、債権者は、裁判に訴え、勝訴判決が確定して初めて、強制執行をすることができ、それによって、ようやく、その権利を実現することができます。しかし、そのためには多大の時間的、経済的、精神的負担が伴います。
これに対し、その契約を公正証書にしておけば、金銭債務については裁判をすることなく強制執行をすることができます。
すなわち、離婚給付契約における養育費、慰謝料等の支払いに関する契約や、金銭消費貸借契約や債務承認弁済契約など、一定額の金銭の支払い約束を内容とする契約に限られますが、これを公正証書にしておくと、その公正証書には、裁判をすることなく、強制執行(裁判所が、債務者の財産を差押え・換価し、その換価金を債権の回収に充てる手続です。)ができる効力(執行力といいます。)が与えられています。
これによって、債権者は、安い費用で、簡易・迅速に、その権利を実現することができるのです。
- ★ 事実実験公正証書の証拠力について
- 私権をめぐる紛争を未然に防止し、正当な権利を保全するためには、法律行為に関する公正証書だけでなく、公証人が、自らが五感の作用により、直接体験した私権に関する事実を記述して作成する事実実験公正証書により、証拠(人の供述を含みます。)を保全しておくことが効果的な場合が少なくありません。
ある時点で、ある事実が存在したことや、ある人がある供述をしたことなどを、後日証明する方法として、書面(写真や図面等を添付したものを含む。)を残しておくことが有効であり、よく行われています。しかし、その書面が私文書である場合、本当に作成名義人によって作成されたのか、その内容は真実なのか、日付や内容が後日改変されていないかなどのほか、その当時、作成者(供述者)が正常な判断等ができる状態にあったか、などが争われた場合、それらを立証することは必ずしも容易ではありません。また、文書の作成者がその内容について利害関係があることを理由に、その内容の客観性、信用性が低く見積もられることもあります。
これに対して事実実験公証証書は、利害関係のない公証人が、第三者の立場で、客観的に、ある事実を見聞したり、ある人の供述を、本人確認の上で聴取したりして作成するものであることから、その内容の客観性、正確性が担保されている上、その原本が公証人において厳重に保管されるので、作成日や内容等を後日、改変することは不可能です。
このようなことから、事実実験公正証書は、一般に私文書に比べて証拠力が高く、証拠保全のために極めて有効な方法と言えます。